今月2度目の読書感想文

 エアコンが息をしていない部屋には風邪をひいてしまいそうなほどの冷気が漂っています。そこに響くのはタイピング音と、課題が終わらないことへの焦りから来る心音だけ。ちょっと硬いベッドに腰掛け、ネタバレに配慮した結果スッカスカになってしまった前回のブログのリベンジに勤しむ端正な顔立ちブロガーは誰か。そう、私です。あ、冗談ですよ?そして、彼が今回の記事のテーマに選んだ本は何か。そう、勿論アレです。

魔女の旅々  白石定規

 書き出しで分かった人も多いかも。かもじゃねえわ。確定だろ。取り敢えずあらすじをば。
 史上最年少で魔法使いの最高位・魔女の称号を得たイレイナが送る旅の物語。旅には楽しいことも辛いこともある。出会いがあれば別れがある。魔女を目指す少女に道を示したこともあるし、花に魅せられた少女を救えなかったこともある。箒が描く旅の軌跡は、読む人みんなを惹きつけるはずです。
 シャベさんにしては珍しくラノベのレビューです。そもそも自分で買ってラノベ読むのが初めてだったりする。けどね、これ、やばいよ。ラノベだと思って舐めてかかると痛い目見る。
 ライトな部分で言えば、イレイナさんの語り口が軽快で心地良い。結構毒やジョークの効いた言い回しが癖になるし単純に面白い。この記事の冒頭の書き出しも本の各章を再現したものなんだけど、こんな感じで情景描写+自顔自賛(自分の顔面の良さを自分で褒め称えること)して誰でしょう?と問いかける。これが俺のストライクゾーンに刺さった。記事の冒頭見て気に入ったら本読んでね。イレイナさん、基本的に丁寧語キャラだから毒とジョークが引き立つのよね。お淑やかな口調から放たれる口の悪さ、好きな人多いでしょ。この表現のお陰で、リズミカルに読むことが出来る。リズミカルに読めるってことは要するに読んでて楽しいってことだよ。
 ノベルの部分で言うと、構成が巧い。伏線張るのは多過ぎず少な過ぎず、わかりやす過ぎずわかりにく過ぎずって感じなので、先の展開を予想してみたり、再読してみたりと言う楽しみ方が可能。特に再読性に関して、例えば再読の楽しさで知られるワールドトリガーみたいな長期間ずーっと繋がった物語じゃなくて、魔女旅の各章はとっても短いのに、「あー、そういえばさっきそんなこと言ってたなー」ってなるのが凄い。短い中にもしっかり印象的なところがあって密度が高いからこそ、こういう感想になるのだ。伏線部分以外の内容が薄かったら、先の展開を予想ではなく『断定』してしまうことになるし、「そういえば」という感想を抱くことは無い。オチがわかる物語とか当然つまらんでしょ。魔女旅の場合、展開が読めちゃって面白くないなんてことは滅多に無いし、たとえあったとしても美しいオチまでは予想できないと思うので(俺自身がそうだった)安心して手に取って欲しい。
 そして、時系列が一定でないのも読みやすさを高めている。誰にとっても旅の始まりは特別なもの。そういうのじゃなくて、魔女であり旅人でもあるイレイナさんにとって旅は日常的なものであって、旅をすることは当たり前のことだから、普通の旅を開幕で読者に提示するってのが巧いと思う。チュートリアルキャラが居る訳でもないから、第1話が旅の始まりだったら世界観設定とか頭に入って来ないしね。そして、読者がちゃんと作中世界における魔法とか国とかの設定を理解した頃に旅立ちの物語や旅に出る前の物語が描かれる。こうすることで、事務的な説明文章、つまり読者を現実に引き戻すものを最小限に留めている。故に作品に没頭しやすい。
 それから、あらすじでも書いたように旅には楽しさと辛さの両面がある。読者が初めて作品に触れる第1話は楽しいエピソードで、その次の第2話ではもう辛いエピソードになる。かなり早い段階で、ただ楽しいだけの旅じゃないことがわかって良い。全体で見ても悲しいお話の割合が高めで、イレウナさんは肉体的にも精神的にもかなりキツい目に遭っている。主人公がただ無双してるだけじゃないの、良いよね。そもそもイレイナさんの能力だってきちんと努力して身につけたものだし。8割型偏見混ざってるけど、転生したら最強になったり最強の力を逆襲のために振りかざしたり中身餓鬼なのに女の子にモテまくりだったり、以上に特に理由づけがされてなかったりする最近のラノベ主人公は見習え。閲覧数を稼ぐため『見られる作品』にするべく異世界転生とか逆襲とかハーレムとかに走ったなろう小説等とは違い、魔女旅は初めは自費出版されていたものなので、純粋に『良い作品』を書こうとしてるのが伝わってくるし、実際良い作品だと思う。
 纏めに入るよ。#魔女の旅々はいいぞ はい終わり。語るべきことは語り尽くしたので短く纏めたよ。ではでは〜。