今年最後の

 2021年、過ぎるの早くないですか?というわけで今年最後の書評ブログやってくよ〜。

4年霊組 こわいもの係 床丸迷人

 今回もつばさ文庫からの選出です。前回のブログでも書いた通り多分今の人類は俺が想定していた以上に読書経験に乏しいので、初心者の読みやすさ重視です。私の身体の3割はつばさ文庫でできているってぐらい読んだレーベルの大好きなシリーズです。
 お化けの噂が絶えないあさひ小学校。怪異による被害から生徒たちを守るため、毎年4年1組の女子出席番号4番が“こわいもの係”に選ばれ、事件解決に乗り出していく。今年選ばれた友花は、鏡の精の鏡子や座敷童の花ちゃんと出会い、こわいもの係として奔走する。そんなお話です。
 私が本読みになったきっかけであり怪異好きになったきっかけでもある小説です。第1回つばさ文庫小説賞の受賞作なのですが、作者さんは本作が初執筆だそうな。そういうわけで、俺が『素人でも本って書いていいんだ!』と思ったきっかけでもあります。実行に移したのはだいぶ後だが。というか、床丸先生、初心者の文章力じゃないです。シナリオの辻褄や伏線がしっかりしていてギャグ描写も十分にある。天才か?初心者文字書きのハードルをブチ上げないでくれ。
 児童書だけあって、内容は基本的にハートフルな感じです。可愛い女の子が可愛い怪異とわちゃわちゃする感じです。語弊があるかもしれませんが嘘は言っていません。怪異も女の子たちも可愛いです。絵は浜弓場双先生。あのおちフルの人。そういう方向に目覚めたきっかけでもあるかも。
 続編もあります。4年が5年に変わるんですけど。5年の方は13までナンバリングされています。4年にはいなかったキャラが増えたり、既存のキャラが退場するシリアスな展開があったりと山と谷が激しくなります。
 普通に大人が読んでも楽しい小説です。魑魅魍魎の新解釈も見られて面白いです。怪異好きの方は特に、ぜひ読んでみてほしいです。

昨今の人類、物語を摂取しなさすぎでは?って話withマンスリー書評

 先日ニチアサ関連のツイートを追っているときにこんな話を見かけたんです。一字一句正確ではないけど、『うちの5歳の息子は戦隊とか観てないなあ。マイクラばっかりやってる』って感じ。これを観たとき私、思いました。由々しき事態だと。
 別に、単にゲームばかりやってることが悪いとは思ってないんです。やってるゲームがポケモンカービィメガテンならいいんです(5歳児がメガテンやってたらそれはそれで問題だが)。
 じゃあマインクラフトの何が駄目かっていうと、マイクラの主な要素は自分の好きなように建築をするゲームであり、そこにストーリーはないんです。マイクラのワールドにプレイヤー以外の人間は存在しないんです。村人や行商人がおるやんって思ったそこのあなた、そう言う話じゃねえんだよ。読解力足りてますか?(反語)mobとの会話はストーリーではありません。
 もう一本予防線を張っておきますが、マインクラフトそのものを否定するつもりもありません。創りたいものを自由に創る。文字にすると単純ですが実際には奥が深いものです。遊びの中で自然に創造力や想像力が身につく素晴らしいコンテンツだと思います。
 しかし、この世には『物語からしか摂取できない栄養』というものが確かに存在するんです。小説、漫画、ドラマ、ゲーム。なんでもいい。とにかく物語に触れてほしい。
 100冊の本を読めば100人の人生を体験できます(シリーズものがあったらダブるだろ!というマジレスはスルーします)。一度きりの人生において百度の人生の体験ができる。これは非常に有意義なことです。自分語りになりますが、私の場合はポケモンチャンピオンを目指す旅の中で対立する価値観を持つ人々と出会い、先生の命を狙うアサシン中学生になって命の尊さを知り、古典部に入部して学校の謎を解き明かし、宇宙の平和を守るヒーローに変身し……と、様々な『人生経験』を積んで来ました。幾度かの旅をして、数十の世界を救いました。強くなろうと思ったのも、優しくなろうと誓ったのも、全部物語からでした。現実では味わえないような経験が今の自分を形作っているものと思います。人によってどんな作品を手にしてどんな経験をするかは異なると思いますが、全員に共通して言えることは、その経験は一人で生きていたら決して味わえないものであるということです。
 そこへ行くとマイクラはどうでしょうか。好きなようにクラフトする。そこに他人の意思は介入しない。これではいけません。全てが自分の中で完結してしまっています。mobや他プレイヤーと同じ空間に滞在しているだけでは『人生経験』になりません。
 で、ここからが本題。皆さんの近くにもいませんか?或いは、皆さん自身がそうじゃないですか?物語を一切摂取しない現代人。だいたいみんな、ストーリーがないゲームしかしてなくない?本とか最後に読んだのいつですか?
 がっつり余談ですが、ストーリーがないゲームに関しては、ゲーム実況文化が関係してると考察します。ネタバレとか気にする必要がなく、途中から視聴を始めてもいい。何より、リスナーとPvPなどで交流もできる。こういった事情でストーリーがないゲームの実況や配信をする人は多く、それに影響されて同じゲームをするリスナーも多いです。故に先程も話したマイクラだったり、スマブラとかFPSをはじめとする対戦ゲームだったりが普及している。ストーリーがあるゲームでもストーリーをプレイしない人も多いでしょう。私はポケモンのストーリーが好きで、それに影響を受けた人間ですが、ストーリー全クリまでをチュートリアルと称してネット対戦しかしてない戦闘狂もいます。誤解を恐れず言わせていただきますが、こういった手合いは嫌いです。堂々と「私は物語を理解する知能を持ち合わせていません」と宣言しているようなものです。
 脱線した話を戻して、と。物語を摂取しない人。イコール『人生経験』が欠如している人。増えてきたと思います。他人を慮る思いやりも、先のことを考えて行動しようという考えも持ち合わせていない人、クラスに2桁はいる(いた)でしょう。自分を棚上げするつもりはさらさらありませんが、彼らを見下すつもりはあります。高3にもなって人の話聞けねえ奴が多すぎるんだようちのクラス!……と愚痴も程々にして、こう言っては失礼ですが、普通の人──年齢相応の倫理と思考を持ち合わせている人──は共通して、実在非実在を問わず他人の経験を糧にして成長するのが上手いなあと思います。優れた人を模倣して、愚者の後にはついて行かない。そうやって自己を進化させられる人は、多くのフィクションから多くの経験値を得ている人だと思います。現実の人にも真似すべき人はいますが、それだけでは足りません。そもそもそういう人の人生を一人称視点で描いたものって滅多にありませんし。そういうわけで、『物語からしか摂取できない栄養』というのが存在するんです。ちなみにここまでの文章、オブラートで十二単にしています。本当はもっと汚い言葉で書きたかった。


 で、ここから毎月やってる書評、おすすめの本の紹介に移ります。今回は前置きがこんな感じなので、読書経験の浅い人でも読みやすいものを選びました。まあ多分読書してない人はこの記事ここまで読めないだろうけど。
 多くの読書家が読書未経験者向けにおすすめの本とか紹介していますが、はっきり言ってそれを見て本を読もうとする人はいません。だって紹介するものみんな硬っ苦しいもん。誰が初手で啓発本だの時代小説だの読むか。決して少なくない読書経験を有する俺でも躊躇うわ。
 というわけで児童書を薦めることにしました。小学生でも読めるように書かれた本。これは、読者の精神年齢だけでなく、読書経験に見合う読みやすさから設定されています。つまり、小学生並み、或いはそれ以下の経験しかない大人にも読みやすいはずです。また、一冊のボリュームも控えめなので、時間のない(笑)現代人にぴったりです。

オンライン!  雨蛙ミドリ

 角川つばさ文庫の人気シリーズ。児童書の中でも、キャラクターや世界観が比較的大人向けなものを選びました。そもそもがエブリスタという投稿サイト発の小説であり、中身はれっきとした大人向けです。言葉遣いとかを子供にもわかりやすくしただけ。
 ナイトメア。謎のオンラインゲーム。差出人不明の荷物を開けてこのゲームを手にした時から地獄が始まる。参加は強制。開始前に腕、目、足などの任意の身体機能を選び、ゲーム内でアバターが死亡すると、その機能が失われる。右腕を選んで敗北すると右腕が動かなくなる。一応復活することも可能だが、心臓を選んだ場合はその限りではない。このゲームを完全に攻略し、死に怯える毎日から解放されることを目的に戦う高校生の物語。
 ゲーム中の死が現実の死に繋がるというのは最近のラノベっぽいですね。主要キャラも高校生ばかりなので、小学生に感情移入できないとかの心配も要りません。適度にラブコメ要素があったり、厨二心を擽ぐる設定だったり、単純に戦闘描写が面白かったりと読みやすい作品です。
 死のリスクを避けるためにほとんどの人はデイリーミッション(やらないと死ぬ)以外の無駄な戦闘を避けているためか、主要キャラにはゲーム攻略を目指す数少ない高レベルプレイヤーが多く、敵も相応に強いものが多くてハラハラさせます。また、その中で稀に発生する主人公の頭脳戦も見ものです。
 敢えて一つ残念な点を挙げるなら、主人公が頭脳派キャラな割に児童書化の弊害で謎解き要素が小学生向けなこと。ここに不満を覚えるようになったら十分に読書に慣れたと言えるでしょうし、エブリスタの方で原作を読んでみてもいいかもしれません。ただ、児童書版にしかないオリジナル展開もあるので、こちらも捨てがたいところ。
 読書初心者が一気に中級まで駆け上がるのに適しているかと思います。勿論本来のターゲット層である小学生にもおすすめ。非常に完成度の高い作品です。

今月の

 まずは近況報告から。突き指しました、シャベココです。利き手の親指が死んだのでお絵描きができなくなりました。折角模試が終わったら完成させようと思ってた絵があるのに。三週間連続で模試の週休一日ブラック生活が終わってようやくフリータイムができたのに。一応、模写はふっつーにやってるのですが、Apple Pencilの筆圧検知が効かんのでデジタルが描けないんです。はあ。前置きはここまでにして、本紹介です。

The Grimoire of Marisa (グリモワールオブマリサ)ZUN

 うちのブログでこういった本を紹介するのは珍しいですね。霧雨魔理沙が書いた(という体で神主が書いた)弾幕の記録、もとい東方Project 公式スペルカード撰集です。なんというかこう、作中のキャラクターが書いた書物が現実に販売されてるのって、いいですよね。
 曰く、どうでもいい日常を書き留める事で何か見えてくるのだろう。そう考えた私は、今まで見てきたどうでもいい出来事──スペルカードを本に纏める事にした。だそうで。
 2009年、地霊殿までの各キャラのスペカについて、魔理沙なりの解釈で書き綴られています。『当たると痛い』だの『参考にすべきじゃないな』など魔理沙視点での文章が臨場感あって面白いです。また、例えば夢想天生のページには、『最初はスペルカードでもなんでもなかったのだが、私がスペルカードの名前をつけて遊びにしてあげた。』などの、或いはこの本を読まないと身に付かないような設定、裏設定がいっぱいです。え?YouTubeの横スクロールまとめ動画でだいたい知ってる?あ、はい……。でも、魔理沙の口ぶりが妙に心地よくて単純に読み物としても面白いんですよ。というか多分そっちがメイン。え?ゆっくり実況で魔理沙の口ぶりの解説がボイス付き(合成音声)で聞ける?あ、そうですね……。まずいな。動画コンテンツが強すぎて、敢えてこの本を薦めるのが難しすぎる。ハードカバーだから護身に役立ちます!とでも言えばいいか?ただまあ、結構な文量と各キャラ一枚ずつのイラストに書き下ろし楽曲と表紙絵壁紙までついてくるって考えたら総合的にかなりつよつよな本なので、秋の夜長に一冊どうでしょう。

https://www.amazon.co.jp/Grimoire-Marisa-%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%83%A2%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%AB-%E3%83%9E%E3%83%AA%E3%82%B5-DNA%E3%83%A1%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%A2%E3%83%96%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9/dp/4758011524
Amazon、定価の3倍アイスクリームなので取り寄せできる書店行った方がいいです)

なんかモチベが消え失せてる

 いきなりですがこのブログ、閲覧数の大半はフリートから飛んできてくれた人が占めてたんだよね。フリートがなくなってから目に見えて訪問者が減ってる。Twitterくんの改悪によって私のブログ執筆のモチベーションは下がってるんです。そうこうしてるうちに今月のリミットが近い。はあ、書くしかないのか……。自分ルールを曲げるのは俺の最も嫌いとするところなのでちゃんと書きますけどね(月頭に書くってルールはどうしたよ)。

探偵AIのリアル・ディープラーニング 早坂吝

 みなさん、ディープラーニングってご存知でしょうか。ざっくり言うと、AIに人間の脳神経回路に似たネットワークを持たせること。これにより、AIはいろんなところからさまざまな知識を吸収して成長することができます。
 例えば、人間さまはぱっと見で猫と犬を見分けることができるけど、従来のAIには難しかった。どちらも四足歩行で頭の上にぴょこんと耳が立っていて顔の横にヒゲが伸びていてしっぽがあってもふもふで……と、それぞれの情報を書き出していったら全く同じですよね。この『言語化された特徴』を頼りにしていた過去のAIには、にゃんことわんこがわからなかった。しかし、写真をもとに『言語化できない特徴』まで理解した新しいAIには、猫と犬を見分けることができるのです。そのために必要なものが、人間の脳に似たシステムだそうです。俺もあんまり詳しくないけどね。そんな前提で記事を書くな。
 で、タイトルにもある通りこの本の主軸はAIのディープラーニングです。ゼロワンゼロワンゼロワンゼロワン……
 AIの学習には、経験が重要です。先ほどの猫と犬の見分けでは、人間によって多数の写真を見せられて学習しました。しかし、AIが己とバトルして、その結果を踏まえて進化するというやり方もあります。これは囲碁ソフトなんかで使われた方法です。囲碁のいろはをディープラーニングした囲碁ソフトは自己対局を繰り返した末に人間のプロ棋士に勝っちゃいました。
 作中に登場するAIは自己対局ではなく、《刑事》AIの相以と《犯人》AIの以相が対決を行い、相互学習で進化しました。開発者は大学教授の合尾創。ある目的のために作られた両者だが、創の死と同時に以相の方が盗まれてしまう。息子合尾輔は残された相以を発見し、ともに父の死の謎を解き明かす。そして、盗んだ以相を悪用する犯罪組織との戦いに身を投じる。そんなミステリーです。
 フレーム問題に始まりシンボルグラウンディング問題、不気味の谷と、一度は聞いたことのあるAI用語がトリックに絡んできます。一応説明しておくと、それぞれ『AIは融通が効かない』『AIは猫と犬を見分けられない』『AIは人間に似すぎるとよくない』というやつですね。シンボルグラウンディング問題は最初に挙げた例のやつです。犯行を計画したのがAIであるため、事件の所々にチグハグさがあります。作中人物も、読者も、人間である限り、そのAI特有の思考によるおかしさが邪魔をして推理ができない。そんなトリックが展開される物語です。
 合尾教授が相以と以相を開発した理由となるとある事件に関する縦軸のストーリーと、各話の単発エピソードが見事に絡み合い、推理小説という古のジャンルとAIという最新テクノロジーが融合した名作です。ぜひご一読ください。

サボりすぎだ

 毎月最初の土日に書くつもりだったブログ、気づけば最後の土日になってしまいました!ガハハ
 馬鹿か?サボりすぎだクソ野郎。
 時間もないのでさっさと本題へLet's goだよ。手元に件の本がないのでテキトーな文章になっちゃうけど許してね。

魔法少女育成計画 遠藤浅蜊

 “魔法少女育成計画”。プレイヤー数万分の一が現実で魔法少女になると噂の人気ソーシャルゲーム。N市に16人の魔法少女が誕生した時、戦の火蓋が切って落とされた。魔法少女は土地の魔力を吸い上げる。16人だと多すぎるから半分に減らす。魔法少女としての活躍が毎週ランキングにされ、再開が脱落するというルール。少女たちは戸惑いながらも、魔法少女であり続けるためにミッションをこなしていく。やがて、脱落者は死亡する、そのルールが明らかになった時、ランキング争いはデスゲームに姿を変えた。
 かわいい魔法少女が主役の鬱系のお話。ここだけ切り取るとまどマギに似ていますが、あちらは抗えない宇宙の理に予想外の方法で抗うお話だったのに対し、まほいくの理不尽さは人為的に作り上げられたもの。明確な敵、悪意を持った黒幕が存在します。しかし、そのことを知るものはいない。そのため、悪意を持った魔法少女を中心に魔法少女同士の殺し合いが勃発します。自分を犠牲に仲間を助ける者、他人を殺して生き残ろうとする者。生き残るために手を組んだ者達、蹴落とすために手を組んだ者達、裏切るために手を組んだ者達。さまざまな思いが交錯するデスゲーム。果たして何人の少女が生存できるのでしょうか。
 死んで欲しくない人が死んだり、死んで欲しい奴が死んだり、誰が脱落するか予想のつかない手に汗握る争い。人間の醜さとその中で藻掻く少女達を楽しむことができます。ダークなお話が好きな人におすすめの名作です。

サボってごめん

 ここ暫く土日のスケジュールが死んでたので、先々週サボった分を先週も書けず終いでしたごめんちゃい。さておき今月もやっていくぜい。めちゃくちゃ面白い本を見つけましたよ。

余命3000文字 村崎羯諦

 文字数ネタ系の小説は過去の記事でも“100文字SF”について扱いましたね。今回は短編集で、文字数ネタは表題作だけですが。やばいものが詰まった本です。文学の新たな可能性が開かれた感じ。恐らくうちのFFに多い文字書き文字読みの皆さんなら必ず気にいると思う。今まで見たことのない文章表現が使われるし、しかも一つ一つの作品にそれぞれ違う技法が詰め込まれている。
 例えば表題作の“余命3000文字”では、3000文字というメタ的な余命を宣告された青年が主人公になるのだが、各ページの左下に残りの文字数がカウントされる。そしてそれがゼロになったページで物語が終わる。青年はなるべく複雑な思考をしないで生きるようになる。思考は文字数を消費するからだ。そうやって割と長い間、数年単位で生きることになる。しかしその人生を読者の視点で見ると(そもそも文字数の概念がメタ視点のものだが)、スッカスカだ。『一年が経ち、二年が経ち、五年が経った。』じゃねえんだよ。なんで5年でそれだけしか使わねえんだよ。ここまで900文字、しかもその半分以上は医者との余命宣告のやりとりで消費って、どういうことだよ。特筆するほどでもなくても楽しいことはあるなどというが、その楽しいイベントも思考を最小限にしてたら味わいきれないんじゃないか。このペースでいけば3000文字使い切る前に寿命に到達するのでは?って、あまりにも空っぽすぎる。その上で、『あなたの人生は何文字くらいですか?』で締めてくるの、怖いよ。本文の構成を見る感じだと、あんまりイベントがない日は纏めて数日で片付けられてしまうそうなので、下手したら自分の人生が3000文字埋まる気がしない。
 他の作品にも面白い設定や多彩な技法が取り入れられており、本当に全部同じ人が書いたのか疑わしくなる。合作って言われてもノータイムで信じられる。
 技法に関しては言葉で表現するのが難しいが、例えば“食べログ1.8のラーメン屋”では台本のような書き方になっていて小説というよりドラマを見ているときのような感覚になる。
 世界観設定について、割と現実的なものとファンタジックなものが混在していて、特に非現実の方が多いのだが、そちらの描き方が素晴らしい。『心を取り出して石鹸で洗う』とか、『肉体を脱ぎ捨てて骨だけになる』とか、『人間の金持ちを捕獲してペットのように飼う』とか、こういうおかしなことがさも当たり前であるようになんの説明もなくなされるのにそういう世界観なんだと即座に理解できる説得力が強いし、そもそもの発想もレベルが高すぎる。
 個人的に特に好きなのは“パンクシュタット・スウィートオリオン・ハニーハニー”。某鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼みたいなタイトルをしている本作。これに関してはもう、どう表現することもできないのだ。人が名前ではなく番号で呼ばれていたり、若い番号の人が死んだら番号が一つ繰り上がったり、東西南北のブロックに分かれた就寝用プライベートスペースだったり、なんとなく『そういう世界観』なのはわかるが、しかしそれでは説明のつかないカオスがいっぱいなのだ。作中のエリア放送の文章を引用しますね。
“朝の日差しが看板にぶつかれば、上下左右で電磁スペクトルが分割されます。天気は午後からセンセーショナルな舞台演劇に興奮するでしょう。南エリア第二ブロックでは食べられる定規に注目してください。それでは皆さんご一緒に。おめでとうございます!”
なんもわからん。翻訳ソフトの不正確な翻訳でもこうはならんやろって感じの文面。でも、各キャラの台詞回しや地の文はなんとなく海外小説みを感じる。で、こんな感じの狂った文章が作中何度も登場する。先述のやつなんてまだ『天気は〜でしょう』って現実に存在する構文が使われているだけまだマシな方で、残りのやつは乱数で作ったん?ってぐらい脈絡がなさすぎる。最後のおめでとうございます!って何???って感じだが、どうやら作中のみんなにとっては常識のようで、あちこち歩き回りながらエリア放送をしている放送担当者にエンカウントした時には担当者がマイクに向けていうのと同時に、声を揃えて元気よく何かを祝っている。まるで読者の方が世界の常識から弾き出された非常識なのではないかと疑いたくなるほど、一切の説明がなく意味不明な掛け合いが繰り広げられる。パラレルワールドの小説を読んでいる感覚と言ってしまってもいいかもしれない。そんな作品だ。
 こんな感じの不可思議なお話が多いが、それ故にその中に時々紛れている現実的な作品たちが映えている。“不倫と花火”は、女子高生が父親の不倫相手と花火片手に語らう様子の物語なのだが、情景も心情も、あらゆる表現のディティールが丁寧に繊細に描かれている。“パンクシュタット〜”との温度差で風邪をひきそうだ。
 リアル調の作品は他にもあるが、総じて美しい物語になっている。もっと雑な括り方をするなら、エモいお話だ。特に、かつて自殺した親友が夢に出てきて励まされる“おはよう、ジョン・レノン”と、亡くなった難聴の弟に捧げるため真冬に向日葵の歌を爪弾く“向日葵が聴こえる”は、命を落とすという要素があるためか特に強い印象が残る。『舞台設定』において読者の度肝を抜き、その上で面白いオチを提示してくるフィクションが同じ本に収録されているのに、設定は普通なのに『ストーリー』全振りでここまで印象的なエピソードになっているリアル調の作品たちの、文章としての強さが感じられる。
 勿論ファンタジーの方も印象的で、こちらは皮肉や風刺のスパイスが効いている。これに関してはオチが秀悦なのであらすじはここには書けないのだが、クスッと笑える、けれども胸に深く刺さるエピソード揃いだ。先ほどは散々わけわからんなどと評した“パンクシュタット〜”だが、これにしたってきちんと胸にくるものはある。番号で管理されていて死んだら番号が繰り上がる、というのは誰かが死んでも世界はなんとかなるということで、そこに一抹の寂しさを覚えたり、人はいつ死ぬかわからないというメメント・モリ的なことを感じさせられたり。また、それこそ最初に触れた表題作“余命3000文字”では、自分の人生の文字数を意識するようになる。文字数というのはあくまで比喩的なものだが、要するに人生の充足度だと思う。省エネ主義を心情にする某氏にしたって小説数冊分の青春があるのに、どれほど人生を捨てれば余命よりも先に天寿を全うできるのだろう。……なんていうのは常にイベントを探していて非日常に飢えている俺だから抱く感想であって、省エネ主義の彼のような人であれば3000文字に収めようと思えるのだろうか。と、色々と思うところがある。いったいどれほどの人が自分の人生を3000文字で終わらせたくないと思うのか。逆に、3000文字で終えたいと思うのか。この本の作者ではないが、改めて問いたい。あなたの人生は、何文字か。3000文字というのは本当に少ないもので、何を隠そうこのブログが3000文字ジャストなのだ。

書評

 こんにちは、シャベココです。挨拶安定しねえなこのブログ。
 さて、今回もやっていきますよ。書評記事。余談ですが、この記事とは別に学校で行われるビブリオバトルの原稿も用意しなきゃならんの、地獄か?そっちは以前ブログでも紹介した魔女の旅々にする予定なのですが、(https://sherbetcocoa.hatenablog.com/entry/2021/02/14/003604ラノベを一般向けに面白そうに魅せる術がわからん。っと、話を戻して。

余命一年と宣告された僕が、余命半年の君と出会った話 森田碧

 言ってしまえばタイトルの通りのお話です。残された僅かな命を目一杯使って、ただひたすらに純粋な恋をする高校生のお話。
 一年というリミットを提示されて絶望していた秋人が出逢った少女・春奈。自分より残された時間は少ないのに明るく振る舞う春奈は秋人の希望となり、外に出られない自分のもとに来てくれる唯一の友人である秋人は春奈の心の支えに。惹かれ合う2人と、その想いを邪魔する病魔。軽く中盤のネタバレになってしまいますが、自らの病を隠して春奈に接していた秋人は、突然再発した発作によって春奈との約束をひとつ破ってしまいます。
 両想いであることは明白だし恋のライバルがいるわけでもない。なのに結ばれないかもしれない。そんな危機感を持ちながら読み進めていくことになる。そうして結末にたどり着いた時、その恋が報われた時、きっと涙するでしょう。最善の結末とは断言できないかもしれない。実際登場人物の1人が後悔する描写があるし。それでも、素敵なトゥルーエンドになっていると思います。
 短いけど纏め。短い命をまるごと捧げた恋の物語です。ぜひ手に取ってみてください。