昨今の人類、物語を摂取しなさすぎでは?って話withマンスリー書評

 先日ニチアサ関連のツイートを追っているときにこんな話を見かけたんです。一字一句正確ではないけど、『うちの5歳の息子は戦隊とか観てないなあ。マイクラばっかりやってる』って感じ。これを観たとき私、思いました。由々しき事態だと。
 別に、単にゲームばかりやってることが悪いとは思ってないんです。やってるゲームがポケモンカービィメガテンならいいんです(5歳児がメガテンやってたらそれはそれで問題だが)。
 じゃあマインクラフトの何が駄目かっていうと、マイクラの主な要素は自分の好きなように建築をするゲームであり、そこにストーリーはないんです。マイクラのワールドにプレイヤー以外の人間は存在しないんです。村人や行商人がおるやんって思ったそこのあなた、そう言う話じゃねえんだよ。読解力足りてますか?(反語)mobとの会話はストーリーではありません。
 もう一本予防線を張っておきますが、マインクラフトそのものを否定するつもりもありません。創りたいものを自由に創る。文字にすると単純ですが実際には奥が深いものです。遊びの中で自然に創造力や想像力が身につく素晴らしいコンテンツだと思います。
 しかし、この世には『物語からしか摂取できない栄養』というものが確かに存在するんです。小説、漫画、ドラマ、ゲーム。なんでもいい。とにかく物語に触れてほしい。
 100冊の本を読めば100人の人生を体験できます(シリーズものがあったらダブるだろ!というマジレスはスルーします)。一度きりの人生において百度の人生の体験ができる。これは非常に有意義なことです。自分語りになりますが、私の場合はポケモンチャンピオンを目指す旅の中で対立する価値観を持つ人々と出会い、先生の命を狙うアサシン中学生になって命の尊さを知り、古典部に入部して学校の謎を解き明かし、宇宙の平和を守るヒーローに変身し……と、様々な『人生経験』を積んで来ました。幾度かの旅をして、数十の世界を救いました。強くなろうと思ったのも、優しくなろうと誓ったのも、全部物語からでした。現実では味わえないような経験が今の自分を形作っているものと思います。人によってどんな作品を手にしてどんな経験をするかは異なると思いますが、全員に共通して言えることは、その経験は一人で生きていたら決して味わえないものであるということです。
 そこへ行くとマイクラはどうでしょうか。好きなようにクラフトする。そこに他人の意思は介入しない。これではいけません。全てが自分の中で完結してしまっています。mobや他プレイヤーと同じ空間に滞在しているだけでは『人生経験』になりません。
 で、ここからが本題。皆さんの近くにもいませんか?或いは、皆さん自身がそうじゃないですか?物語を一切摂取しない現代人。だいたいみんな、ストーリーがないゲームしかしてなくない?本とか最後に読んだのいつですか?
 がっつり余談ですが、ストーリーがないゲームに関しては、ゲーム実況文化が関係してると考察します。ネタバレとか気にする必要がなく、途中から視聴を始めてもいい。何より、リスナーとPvPなどで交流もできる。こういった事情でストーリーがないゲームの実況や配信をする人は多く、それに影響されて同じゲームをするリスナーも多いです。故に先程も話したマイクラだったり、スマブラとかFPSをはじめとする対戦ゲームだったりが普及している。ストーリーがあるゲームでもストーリーをプレイしない人も多いでしょう。私はポケモンのストーリーが好きで、それに影響を受けた人間ですが、ストーリー全クリまでをチュートリアルと称してネット対戦しかしてない戦闘狂もいます。誤解を恐れず言わせていただきますが、こういった手合いは嫌いです。堂々と「私は物語を理解する知能を持ち合わせていません」と宣言しているようなものです。
 脱線した話を戻して、と。物語を摂取しない人。イコール『人生経験』が欠如している人。増えてきたと思います。他人を慮る思いやりも、先のことを考えて行動しようという考えも持ち合わせていない人、クラスに2桁はいる(いた)でしょう。自分を棚上げするつもりはさらさらありませんが、彼らを見下すつもりはあります。高3にもなって人の話聞けねえ奴が多すぎるんだようちのクラス!……と愚痴も程々にして、こう言っては失礼ですが、普通の人──年齢相応の倫理と思考を持ち合わせている人──は共通して、実在非実在を問わず他人の経験を糧にして成長するのが上手いなあと思います。優れた人を模倣して、愚者の後にはついて行かない。そうやって自己を進化させられる人は、多くのフィクションから多くの経験値を得ている人だと思います。現実の人にも真似すべき人はいますが、それだけでは足りません。そもそもそういう人の人生を一人称視点で描いたものって滅多にありませんし。そういうわけで、『物語からしか摂取できない栄養』というのが存在するんです。ちなみにここまでの文章、オブラートで十二単にしています。本当はもっと汚い言葉で書きたかった。


 で、ここから毎月やってる書評、おすすめの本の紹介に移ります。今回は前置きがこんな感じなので、読書経験の浅い人でも読みやすいものを選びました。まあ多分読書してない人はこの記事ここまで読めないだろうけど。
 多くの読書家が読書未経験者向けにおすすめの本とか紹介していますが、はっきり言ってそれを見て本を読もうとする人はいません。だって紹介するものみんな硬っ苦しいもん。誰が初手で啓発本だの時代小説だの読むか。決して少なくない読書経験を有する俺でも躊躇うわ。
 というわけで児童書を薦めることにしました。小学生でも読めるように書かれた本。これは、読者の精神年齢だけでなく、読書経験に見合う読みやすさから設定されています。つまり、小学生並み、或いはそれ以下の経験しかない大人にも読みやすいはずです。また、一冊のボリュームも控えめなので、時間のない(笑)現代人にぴったりです。

オンライン!  雨蛙ミドリ

 角川つばさ文庫の人気シリーズ。児童書の中でも、キャラクターや世界観が比較的大人向けなものを選びました。そもそもがエブリスタという投稿サイト発の小説であり、中身はれっきとした大人向けです。言葉遣いとかを子供にもわかりやすくしただけ。
 ナイトメア。謎のオンラインゲーム。差出人不明の荷物を開けてこのゲームを手にした時から地獄が始まる。参加は強制。開始前に腕、目、足などの任意の身体機能を選び、ゲーム内でアバターが死亡すると、その機能が失われる。右腕を選んで敗北すると右腕が動かなくなる。一応復活することも可能だが、心臓を選んだ場合はその限りではない。このゲームを完全に攻略し、死に怯える毎日から解放されることを目的に戦う高校生の物語。
 ゲーム中の死が現実の死に繋がるというのは最近のラノベっぽいですね。主要キャラも高校生ばかりなので、小学生に感情移入できないとかの心配も要りません。適度にラブコメ要素があったり、厨二心を擽ぐる設定だったり、単純に戦闘描写が面白かったりと読みやすい作品です。
 死のリスクを避けるためにほとんどの人はデイリーミッション(やらないと死ぬ)以外の無駄な戦闘を避けているためか、主要キャラにはゲーム攻略を目指す数少ない高レベルプレイヤーが多く、敵も相応に強いものが多くてハラハラさせます。また、その中で稀に発生する主人公の頭脳戦も見ものです。
 敢えて一つ残念な点を挙げるなら、主人公が頭脳派キャラな割に児童書化の弊害で謎解き要素が小学生向けなこと。ここに不満を覚えるようになったら十分に読書に慣れたと言えるでしょうし、エブリスタの方で原作を読んでみてもいいかもしれません。ただ、児童書版にしかないオリジナル展開もあるので、こちらも捨てがたいところ。
 読書初心者が一気に中級まで駆け上がるのに適しているかと思います。勿論本来のターゲット層である小学生にもおすすめ。非常に完成度の高い作品です。