いつもの

はい。どクソ感想文のお時間ですよ。今回は珍しくネタバレ成分少なめ。

わが家は幽世の貸本屋さん あやかしの娘と祓い屋の少年  忍丸

主人公夏織は幼少期、妖の世界、幽世(かくりよ)に迷い込んでしまいます。妖達は人間が(食べ物的な意味で)大好き。普通ならここでとって食われるところですが、運良く人間を捕食しない変わり者の妖、東雲に拾われ、彼の元で育てられることになります。というのが物語開始以前に起こったこと。

物語は、幽世にもう1人人間がやってきたところから始まります。夏織同様、運良く食われずに済んだ彼の名は水明。訳ありで幽世で捜し物をしており、幽世での拠点として夏織の家に居候します。水明の秘密と、彼の捜し物が第1巻の主軸になります。

人間と妖の価値観というのは大きな違いがあるものです。妖には人間よりも遥かに永い命がある。それ故に生死について特に考え方が違います。夏織も水明も妖たちの価値観に振り回されます。例えば、夏織が仲の良い妖の死に直面した時。その場に人間が夏織1人だったら哀しみを乗り越えることはできなかったでしょう。でも、そこには水明が居た。同じ人間である水明の言葉は、妖の親友の言葉よりも深く刺さりました。夏織が、自分は妖に育てられたとはいえ人間である、と、アイデンティティが揺らいだ時も、水明の言葉がありました。逆に水明の方も、夏織に助けられています。人間と妖、両方の考え方を知る夏織から、人間である水明と妖とのすれ違いを解消してもらいました。

サブタイトルにあるように、水明の正体は祓い屋、つまりは妖の敵です。しかし、彼の周りの妖は彼を受け入れます。烏の怪異、金目と銀目の兄弟は、祓われる方にも祓われる理由があったのだろうと、水明の方から敵対してこない限りは自分たちも敵対しない意志を見せます。それを受け、妖はみんな敵だと考えていた水明の心にも変化が訪れます。

そもそも幽世の住人というのが親切な人ばかりで、幽世に迷い込んだ人間に対しても、結構な期間食われずに生き延びた者は稀人(まれびと)として歓迎します。

そんなわけで、妖の暖かさを感じられる作品になっています。妖とか怪異とか、幻想的な世界観が好きな人、優しい物語を欲してる人に刺さると思います。コミカライズもされているので、この記事を読んで興味は持ったけど小節読むモチベねえ〜って人はそちらをどうぞ。